新版 アリとキリギリス

今、自分が思っていることを物語にのせてみました。
わたしが初めて書いた物語です。多くの人への贈り物になりますように。
さとえ

「新版 アリとキリギリス」

アリとキリギリスがいました。

アリは毎日働いています。暑い日も寒い日もせっせと働いています。
キリギリスは毎日遊んでいます。歌ったり踊ったり、自由気ままに毎日がパーティーです。

ある年の夏。雨が降らず、お水を失った草木たちは枯れ始め、大きな火事さえも起こるようになってきました。もちろん虫たちも大変です。住むところはおろか、食べるものさえなくなり始めました。

せっせと毎日働いていたアリたちには蓄えがありました。しかし遊んでばかりいたキリギリスたちには何の蓄えもありません。歌は聞こえなくなり、やがて枯れた野原には弱ったキリギリスたちの姿が見られるようになりました。

その姿をみた一匹のアリがいました。巣に帰ると仲間のアリたちに、自分たちの蓄えをキリギリスに分けてあげようといいました。仲間のアリは大反対です。暑い日も寒い日もひたすら一生懸命働いたから、こんなときに心配しないでいられるのだ。それに何よりあいつらは、真面目に働いている俺たちを遠くから馬鹿にしていたじゃないか。いい気味だ、苦しむのは当たり前だ。でも一匹のアリは諦めません。確かに君たちのいうことは本当のことだよ。でもね、自分たちの隣で苦しい思いをしているキリギリスたちになにもしないことは僕にはできないよ。この先もしかしたら自分たちも食べ物に困るようになるかもしれない。でもそうなったら、あるものをいつものように、みんなで分け合ってゆけばいいじゃないか。

その話を聞いて、半分のアリが一匹のありに賛成しました。賛成した半分のアリたちは自分たちの蓄えの分だけを半分にしてキリギリスの元へ届けました。

キリギリスたちは驚きました。まさかアリが自分たちを助けてくれるとは夢にも思っていなかったからです。食べ物を得たことで、キリギリスたちにもエネルギーが戻ってきました。ほとんどのキリギスはアリへの感謝の気持ちを口にしました。しかし中には、あんな不味いもの食べられないわ、とか、量が少ない、などと文句をいうモノもいました。

こうしてアリとキリギリスはこの夏を乗り切ることができました。
アリは変わらず働き続け、キリギリスも変わらず、歌や踊りで毎日パーティーです。何も変わることはありませんでした。

この年の秋のことです。今度はたくさん雨が降りました。雨は止むことを知らず毎日降り続けました。地面の中にあるアリの家は水で一杯になって、やがて崩れ、なにもかもなくなってしまいました。

そこへ難を逃れた数匹のキリギリスがやってきました。ご存知の通り、僕たちには君たちに分けてあげられるような食べ物は何もないよ。でもね、僕たちの身体を君たちにあげることはできる。僕たちは歌って踊って恋をして、もう命を存分に楽しんだ。さぁ、遠慮なく食べておくれ。アリたちはキリギリスを食べました。夜になるといつものようにキリギリスの歌が聞こえてきました。この晩キリギリスたちは初めて、アリたちのために歌を歌っていたのです。アリたちも初めて、働くことを止めてキリギリスの歌に耳を傾けました。

こうしてアリとキリギリスはこの秋を乗り切ることができました。
アリは変わらず働き続け、キリギリスも変わらず、歌や踊りで毎日パーティーです。何も変わることはありませんでした。

でも、
アリはキリギリスがいることを知りました。
キリギリスはアリがいることを知りました。

お天とうさまがにっこりと
いつまでもやさしく微笑んでいました。

おしまい

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